【学院の思い出】 「音楽、K組の友達、岡本先生と現代国語」36期 沖祐一

1985(昭60)卒 沖祐一 K組 法

(東京スカパラダイスオーケストラ キーボード)

学院の思い出、音楽、K組の友達、岡本先生と現代国語

 僕が学院に入学したのは1982年です。まさにこれからバブルに突入!といった時代でしょうか。受験勉強で、与えられた課題を解いていくのが楽しく、受け身の勉強に慣れきった自分にとって、学院の雰囲気は、意外なものでした。高校というよりは、大学に、近い。自分が進むべき道を決め、自分で取り組む。当たり前のことなのですが、今考えると、目標の定まっていなかった自分には、馴染むのに時間がかかりました。成績も、一年の頃はまずまずだったのですが、二年になると平均点が20点も下がり、

進級も危ぶまれるほどになってしまいました。
 そんな中で自分が夢中になったのは音楽です。音楽と言ってもベートーベンみたいなクラシックではなく、ビートルズなどに始まり、当時全盛だったマイケル・ジャクソンのような、ポップミュージックでした。
 とにかくどっぶりその世界にハマっていました。目的を失いドヨーンと沈みがちな自分の不安な気持ちが、全て音楽によって救われたという感じです。音楽がなかったら、と思うと、ちょっと想像もできません。たっぷりある時間を使って、スポンジのように音楽を吸収しました。
 また当時は、ヤマハやローランドやコルグ、カシオといった日本の電子楽器メーカーが、世界をアッと言わせるシンセサイザーを立て続けに発表していた時代でした。それらの楽器を使った音がそのまま使われ、世界のヒットチャートを形作っていきました。今では信じられませんが、百貨店で普通にシンセが売られ、歌舞伎町のコマ劇場の真横にシンセショップがあり、学校帰りに良く立ち寄って、欲しいなあ欲しいなあと、いじったりして
いたのです。
 音楽好きということで自然と仲間が集まり、いろんなバンドを掛け持つようになりました。そんな中でサトシ・トミイエ、渡部 チェル(共に今の活動名)という二人のキーボディストと出会いました。二人とも国内外で大活躍しており、その時は思いもよりませんでしたが、僕を含め学院で出会った鍵盤奏者三人ともプロになったというわけです。
 入学当初、良く憶えているのは、わがクラス、K組での初めての体育の授業の時の事。50名ほどの生徒が縦にずらっと並んで準備体操するのですが、一番後ろで一人だけ違う色のジャージを着た人がやけにニコニコ嬉しそうに運動している。それを見て最初、ああ、高校というのは、先生と生徒と、そのどちらでもない舎監のような人がいるのかな?
と思ったと、半ば冗談で今でも話すのですが、その彼がスカパラの谷中敦なのでした。なんだかびっくりするくらいハンサム(死語か?現イケメン)で、とても人のことが好きで、いろんな人とすぐ仲良くなり、仲良くなると電話番号を聞いて、それをメモせず全部記憶していました。僕にもよく声をかけてくれて、遊びに行ったり、服を買いに行ったり、バイトに行ったり。彼も音楽が非常に好きで、僕の知らないマニアックなジャンルにも詳
しく、意気投合して各々が好きな曲をカバーするバンドを始め、その中に他校で知り合ったスカパラのベーシスト川上つよしもいました。楽しみながら断続的にやっていましたが、まさかそれから40年も一緒に過ごす事になるとは!スカパラという場所で、思いつく限りの素晴らしいボーカリストを迎えて曲を作ったり、世界中30数カ国を旅して、しかもメキシコの音楽アワードで賞を頂いたり、国際的なスポーツイベントで演奏したり、あの
頃の自分に言っても意味がわからないでしょうね。谷中君はまだバリトンサックスも、作詞もやっていなかった。まさに自分の後ろに道が出来る、そんな感じだと思います。そしてスカパラがたくさんの人と繋がっているのは彼の力が大きい。
 K組担任の岡本卓治先生は、現代国語の担当でした。それまで僕は小説というものをほとんど読んでこなかったのですが、岡本先生に言葉の持つ深さ、強さというものを初めて教えていただきました。特に印象深かったのは、夏目漱石の「こころ」を題材にした時です。この主人公のとった行動は、本当に自分自身の情熱から来たものなのか、実は、人が持っているから羨ましい、という理由で欲したものなのではないか?と、読み解いていっ
た事は、今でも色んな局面で思い起こされます。実人生を重ねるほど、小説、物語の持つ普遍的な力というものを実感し、読書家と言えるほどではありませんが、その後も様々な本を読み、時には人生に大きな変化を与えるほどの経験をしてきました。
 岡本先生はどちらかと言うと寡黙で、一言一言に重みがあり、教室に入ってくるだけで、騒いでいるクラスが静かになる存在でした。フラフラと方向の定まらない私はさんざんご迷惑をかけ、お世話になりました。この場を借りて、ありがとうございました!
 谷中君もそうですが、クラスの中は本当に個性的な人物ばかりでした。10代後半という、多感で体力も集中力も最高の瞬間を、大学受験で煩わされる事なく、実のあるものにする、これは生かすべきチャンスなんだよと、あるクラスメートに教わりました。自分次第だよ、と。
 バブルの頃から起こった地球上の出来事が凄すぎて、時代の流れはますます加速している感もありますが、そんな中で、今でも学院の友達と、つかず離れず繋がっていて(もちろん谷中は今でもガッツリと)、それぞれが頑張っているなと思えるのは、ありがたい事だし、それが早稲田らしい距離感なのかな、とも思います。

左から岸野真之、山本直大、福田清文、沖祐一(本人)