【海外だより】「豪州パース駐在体験記」 45期 久保田亮介 

 1994(平成6)年卒 45期 J組 久保田亮介 商

 

豪州パース駐在体験記

学院の先輩であり従兄弟の杉渓言久さん(1983年 学院H組卒)からのご依頼で寄稿させて頂くこととなりました。1998年学院J組卒業の久保田亮介と申します。

学院卒業後、早稲田大学商学部に入学。その後旧東京電力株式会社に入社し、東日本大震災後、株式会社INPEX(旧国際石油開発帝石株式会社)に転職、現在はオーストラリア・パースにて娘と共に父子駐在生活を送っています(約2年半経過)。本日は、ここパースでの駐在体験記を投稿させて頂きます。

 

先ずは、私が個人的に感じる日本とオーストラリアとの違い(良し悪しという意味ではありません)について触れたいと思います。

1.国民性

オーストラリアは移民が多い多文化国なのですが、日本人に比べて社交的・フレンドリーな人が多く、またその気質からおしゃべりな人が多いと感じます。例えば、エレベーターに乗った時に相応の確率で見知らぬ人から挨拶されますし、業務時間中に延々とお話ししているグループも見かけます。

また、オーストラリア人は日本人に比べてワークライフバランスを重視する傾向があります。オーストラリア人の多くは朝の始動が早く、7時過ぎに会社に来てもそれなりの人数が出社しており、他方で17時過ぎには殆どの人が退社しています。オーストラリア人はマネジメントであっても2週間程度の休暇を取るケースも珍しくはありません。

 

2.生活環境

オーストラリアは日本に比べて気温・湿度などの天候・気候環境が非常に良く、住みやすいと感じます。個人的にはこの点が最も気に入っています。夏の日差しは強烈ですが(世界で最も皮膚がん発症率が高い国のひとつ)、湿度が低いため日本のような蒸し風呂状態にはなりません。冬は雨風の日が多くなるのですが、気温が氷点下になることはほぼ無く、雨も一日中降り続けることは稀です。

その他の主な特徴は次のとおりです。①人口密度が日本に比べて格段に低く、満員電車や渋滞で苦しむことはありません。②海が抜群に綺麗で、透明度が非常に高いです(写真ご参照)。③虫が非常に多く、特に夏のハエはストーカーのように顔に寄ってきます。私はキャンプ中にマダニ(Kangaroo Ticks)に大量に噛まれました。④お店の閉店時間が早いです(多くが17時頃)。⑤電車乗降の際、ボタンを押さないと扉が開きません。⑥オーストラリアの学校には給食が無く、Canteenという売店はありますが、多くはお弁当を持参します。お弁当と言っても日本のような手の込んだものではなく、非常にシンプルなものが殆どです。(この点、日本のお母さん方は本当にスゴイと、改めて感じます)

              

オーストラリアの海

3.物価

オーストラリアの物価は物凄く高く、感覚的には日本の2~3倍くらいです。ペットボトルの水は安くて3~4豪ドル、ビールは12~15豪ドル、ランチはお弁当的なものであれば12~15豪ドルです(1豪ドル約100円)。その分、給料も高いのですが、給料の上昇がインフレの上昇に追い付いていないことなどから、生活費高騰(cost of living)がオーストラリアの政治的主要課題になっています。

 

4.教育

西オーストラリア州における小・中・高は、1-6年生のPrimary、7-10年生のEarly Secondary、11-12年生のSenior Secondaryに分けられます。日本と違って小学校受験や中学受験は無く、Early Secondaryまでは日本に比べ非常に「緩い」と感じます。一方で、Senior SecondaryになるとATAR(Australian Tertiary Admission Rank)という学校の成績と最終学期に行う卒業試験の得点を加味した得点によりランキングが出され、得点上位の生徒から希望する大学・学部を選択するという仕組みになっています(浪人という概念はオーストラリアにはありません)。10年生までは比較的緩い教育・学習が、11年生以降一気に難易度・負荷が高まり、中学3年生から渡豪した娘も英語かつ難易度の高い授業についていくのに苦労しています。

また、日本における文科省指定教科の中から教科を選択するシステムとは違い、オーストラリアの中高(Secondary School)では自分の学びたい教科や将来必要な教科を自由に選べるのも特色のひとつと言えます。

 

最後に、オーストラリアにおけるエネルギー情勢について簡単に触れたいと思います。

オーストラリアは世界有数のエネルギー資源大国で、エネルギー自給率(国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち自国内で産出・確保できる比率、2021年度)は327.4%と、極めて高い水準を誇っています(日本は13.3%)。それにもかかわらず、近年、オーストラリア東海岸では電力危機が毎年のように起こっています。

世界有数のエネルギー大国でありながら電力不足になるのは何故でしょうか?オーストラリア国内では、特に環境派を中心として、自国のエネルギー資源の約4分の3を輸出していることが原因で電力不足に陥っているため、「国内供給を優先すべき」という論調があります。私は、長年日本のエネルギー業界に身を置いてきた経験上、国内供給を優先するというのは対処療法にすぎず、オーストラリアにおける(特に現アルバニージー政権の)エネルギー・電力政策の問題が根本原因にあると考えています。

私の考える根本原因は、大きく分けて2つあります。ひとつは、政府による適切な電源計画とその実行政策の不在です。現アルバニージー政権は、2022年5月の連邦選挙において再生可能電力比率を2030年までに82%へと高めることを選挙公約として勝利したため、その実現に向けて一気呵成に取り組んでいます。一方で、間欠性電源である再生可能エネルギーの急速な拡大を土台から支える送電系統やバックアップ電源などの電力安定供給に必要不可欠なインフラ整備が並行して進められておらず、また長年オーストラリアのベースロード電源を担ってきた石炭火力発電所の老朽化に伴う信頼性低下により、電力システム全体として非常に不確実性が高い状況に陥っており、この結果電気料金が高騰しています。

もうひとつは、オーストラリア連邦・州政府による脱炭素化及び反資源政策です。オーストラリアがエネルギー資源大国として台頭できたのは、地下に眠る膨大な資源埋蔵量もさることながら、それを探鉱・開発するための外国からのリソース(人材・投資等)を呼び込むことのできる安定的な資源開発推進政策と投資環境が最も重要なカギだったと言えます。外国からの莫大な投資が化石燃料・鉱物資源の開発を可能にし、これまでのオーストラリアの繁栄をもたらしたと言っても過言ではありません。例えば、私が所属する株式会社INPEXがイクシスLNGプロジェクトに投じた金額は400億米ドル(約5.6兆円)を超えており、これにより長期間にわたってオーストラリア連邦・州政府に莫大な税収をもたらします。それにもかかわらず、現アルバニージー政権や一部の東海岸州政府は脱炭素化を錦の御旗として再生可能エネルギー一本足打法にまい進し、逆に化石燃料・鉱物資源への投資やその開発を妨げる政策ばかり打ち出しています。この結果、風が吹かず太陽が照らない時にガス火力発電で穴埋めしないと停電になるという状況が起きるのですが、肝心のガスの開発が進まず、また長年生産を続けてきた東海岸沖合のガス田の生産減少に伴い、特に東海岸において深刻なガス供給不足に陥っています。

日本のエネルギー安全保障上、オーストラリアは最も重要なパートナー国であり、私の生まれ故郷でもあるので、イデオロギー主導ではなく現実・足元・将来を見据えたエネルギー・脱炭素化政策が採られることを願ってやみません。

           

          オーストラリアのコアラ                                オーストラリアでのキャンプ